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【特別企画】ヘヴンズドアーはいつでも③


 『なんで?』と、薄らぼんやりした妻が言った。

 

『(苦しかったんだ‥)』と答えたかったが、声が出ない。

 

『パパ‥』と言い、娘が泣いている。

 

『(ごめんね‥)』と言いたかったが、やはり声が出ない。

 

叫びたかった。心から愛していたよと。最後に伝えればよかった。

 

薄らぼんやりした白い影が闇に消えていった。

 



再び、一面に真っ黒な世界が広がった。

 

苦しかったなあ‥と過去を振り返ってみたが、最後も最後で苦しいじゃないか。

 

もの凄く苦しいじゃないか。

 

結局、苦しいのかよ。

 

苦しい‥。

 

苦しい。



涙が頬を伝ったその時、両目が開く感覚がした。

 

気のせいかと目を凝らし、闇の中を見てみると、天井の火災報知器と目が合った。

 

 『(なんだここは、まさか‥?)』

 

夜中に約3週間の昏睡状態から覚めた後、その明け方に家族に連絡が入った。

 

見舞いに来た妻が、顔を合わせた瞬間、嗚咽を漏らして号泣していた。

 

その姿を見て、心から、心の底から申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 

何て事をしてしまったんだと、気づいた。



自殺未遂になった原因は、浴室のユニットが二酸化炭素噴射時の圧力上昇に耐えきれず、天井が抜けたことにあった。

 

 一時的に上昇した二酸化炭素濃度も、天井裏に拡散するスペースがあったらしく、すぐに低下して正常値近くになったらしい。

 

自ら死を選んだ。そして、まだ生きていた。

 

死は選べる。でも、生きる事はいつか選べなくなる。

 

ヘヴンズドアーはいつでも、少し開いている。

 

僕らのために。


あとがき


『何で看護師になりたい!って女性がいっぱいいるのに、消防設備士になりたい!って女性はいないと思いますか?』

 

上記の問いかけに対して、『発信が足りていないからですよ!例えば、看護師のドラマ見たことありますよね?消防設備士のドラマってありますか?』と回答したいなと思っていたんです。

 

けど、『ほんなら、アンタ消防設備士に関連したそういう発信をしとるんかい?』と言われたら困るやんけ!!

 

‥という特大ブーメランを投げることになりかねないと気付いたので、この “令和” がイキナリ大型連休でスタートするというタイミングを利用させて頂く事にしました。

 

誰かが何となく興味を持って読んでくれたり、こういうのあるんやなってな感じで知ってくれるきっかけになれば幸いです。

 

もしかしたらまた調子に乗って書くかもしれません。今後とも宜しくお願い致します。🙇✨